グレゴリー・ペックと言うと大概の人にとっては「ローマの休日」になってしまうのでしょうがこれは日本での話で、アメリカではこのアラバマ物語でのアティクス・フィンチ役が代表作となっています。アカデミー賞主演男優賞も取っていますし。
田舎町の地味な弁護士、ひけらかさないけれども銃の腕前はピカイチ、そして子どもをしっかり教育して彼らを守る父親、格好良過ぎてケチの付けようがありません。この役はアメリカ映画協会が選んだヒーローの堂々の1位に選ばれています。
物語は大人になった娘のスカウトの目線で語られていきます。前半は子どもたちの世界をまことに微笑ましく紡いでいきます。兄のジェムと妹のスカウト、そして夏休みの間遊びに来ているディルと遊んでいたり隣の家や父親の仕事場である法廷を覗きに行く、子どもなりの冒険に出ていくところは本当に大好きです。
ジェムの妹思いのお兄ちゃん的性格は恐らく父親の影響なんでしょうね。スカウト役のメリー・バダムはこの演技でアカデミー助演女優賞にノミネートされました。これは当時の最年少記録です。
後半は法廷ドラマの本筋となりますが1930年代のアメリカ南部の黒人差別って、こんなにひどかったんだと愕然とする思いになります。リンカーンの奴隷解放宣言から70年ほど経っているはずなのに。
この映画が公開されたのは1962年ですがキング牧師のワシントン大行進の前年です。先日ご紹介しましたアメリカン・グラフィティの舞台が1962年で、そう言えばあの映画は黒人が出てこない映画でした。出てこないことにも意味があると思いますが人間の意識を変えるのは本当に大変なんですね。
黒人差別問題が大きいのですがプアホワイトの生活、貧困から来る教育の欠如、家庭内暴力、女性差別、そういった切り口でも考えさせられますし引きこもりの青年の問題も出て来ます。
観れば観るほど普遍的な問題を淡々と炙り出していく誠に質の高い良い映画という思いを強く感じます。最初アメリカ映画NO.1ヒーローと言われて「えっ」と思いましたが、やっぱり改めて見直すと真のカッコいいとはこういうことかと納得させられます。
難しい話はちょっと置いておいて私の好きなシーンは、スカウトが学校に行く時に着ていくワンピースを着たくないと嫌がるシーンです。遊び仲間が兄とディルくらいしかいない中自分だけ「女の子」になりたくないんでしょうね。
この辺り、この間ご紹介した「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」のサガにも通じるものがあります。親としてこの場面に遭遇したら面倒臭い駄々っ子に見えますが、子どもの成長物語として観ると非常に微笑ましい場面で大好きです。
本記事を書くに当たって一応英語のwikiを覗いたのですが、ロバート・デュバルがこの映画に出ている大人の役者の最後の存命者という紹介をされていました。57年前の映画ですので仕方ないとは思いますが軽くショックを受けました。
子役のフィンチ兄妹はご存命です。それでも70歳前後にはなっています。そんなに遠くになってしまっても良い映画は色褪せないんだなあと改めて思います。皆さまもよろしければぜひご覧になって下さいね。これは本当に良い映画です。